SonyはPS5本体の約半分のお値段 3万円もしながら、E-wasteの削減が期待できる設計、つまり交換可能なサムスティックが付いたDualSense Edgeワイヤレスコントローラーを発売しました。
このDualSense Edgeコントローラーはサムスティックにポテンショメータを使用していると分かっていたので、最初に見た時、心を奪われることはありませんでした。私達はドリフト問題を長く取り上げてきて学んできたので、ポテンショメーターとサムスティックはうまく機能しないということを知っています。しかしはっきりと言わせてください、Sonyが簡単に交換可能なスティックモジュールを作ったのは素晴らしいことです。ただ、なぜドリフトに強いホールセンサーではなく、ポテンショメータを使ったスティックを使い続けているのかは謎です。その上、3万円という価格には驚かされます。
いつか故障するものとみなした上で、ポテンショメータを採用した理由ではないでしょうが、より良い選択肢があるにもかかわらず、これを使い続けるのは不当なことのように思います。メーカーで働く数字に敏感な人たちに言いましょう、品質の良いコントローラーを手にしたユーザーは、それ以上に良質なコントローラーが出てこない限り、他のものに買い替えたりしません。
交換モジュール1個につき20ドルで販売すると、Sonyや他のゲームメーカーにとって大きな収益となるため、消耗部品を使い続けているのだと、内に潜むシニカルな私がそうほのめかしてきます。その可能性は確かに切り捨てることはできませんが、このコントローラーの分解を深く掘り下げていくうちに、マイナーなものと重大な改良点の発見が、潜在的な計画的陳腐化について考え直し始めるきっかけとなりました。
DualSense Edgeのファーストインプレッション
DualSenseコントローラーは人気商品で、初代プレイステーション以来、開発され続けているデザインです。そのため同じコントローラーの形状を保ち続けているのは驚くことではありません。むしろ驚かされるのは、リペアビリティを考慮した上で内部設計を再築していることです。
コントローラ内部を開いて最初に気がつく違いは、主基板にハンダ付けされていたランブルモーターが、一般的なJSTコネクタに繋がっていることです。いつかゲーマーたちがこのランブルモーターを交換するために分解が必要になった時、大きな恩恵を受けるでしょう。
ここで明らかなことは、Sonyが積極的かつ意識的にリペアビリティを設計に取り込み始めたことです。ひょっとすると、メーカー側はリペアビリティ(修理のしやすさ)が法規制に敷かれる未来が迫っていることを予期しているのでしょうか?

DualSense EdgeではJSTコネクタ(右)が繋がっています。
DualSense Edgeの変更: より小くなったバッテリー、より大きくなったトリガースプリング
初代DualSenseと同様に、バックカバーが外れるとすぐにバッテリーにアクセスできます。Edgeのリチウムイオンバッテリー容量は1050mAhで、初代DualSenseの1560mAhと比べると、3分の1程度の容量です。交換可能なバッテリーやパドルボードは、取り出しやすくするために広い内部スペースが必要になります。つまり、バッテリーを小さくする必要があったのだろうと推測します。
この小くなったバッテリーで約5時間のプレイが可能なら、ハードコアなゲーマー以外のニーズは満たしているはずです。しかし約2.7mもあるケーブルが同梱されているにも関わらず、たった5時間しかプレイができない不満が聴こてくるとは、私たちのワイヤレスへの執着心はここまで強くなったのでしょうか?ケーブル接続に不便を感じるなら、リチウムイオンバッテリーを搭載すれば環境負荷がより大きいことを念頭に置く必要があります。

コントローラ内部を調べると、さらに多くの変更点が見つかりますが、特にトリガーにはマイナーとメジャーな改良点が一つずつ確認できます。まずマイナーな変更点に関して、多くのDualSenseユーザーから、R2やL2トリガーの2つのスプリングのうち1つが摩耗して壊れるという報告が上がっていました。つまりトリガーが「スカスカ」な状態になって効かなくなります。新しいEdgeコントローラは、より頑丈なバネを使用しています。Sonyのエンジニアたちがこの問題に着目していることが伺えます。デザインはそのまま、同じ素材を反復しながら改良が行われています。

DualSense Edgeの隠されたアップグレード
最近のコントローラは、トリガーにホールセンサーを採用しているものが多く、Sonyは単純なグラファイトのアクティブサーキットを採用してきたため遅れをとっています。少なくともポテンショメーターではありません。詳しく確認すると十分機能しているように見えますが、Dパッドに搭載されているものと同じメカニズムです。しかし精度が高いため、99%の人には問題なく機能するはずです。
DualSense EdgeのL1とR1ボタンは、このグラファイトアクティブサーキットが使用されていますが、一方でトリガー機構はホールセンサーを使用しています。センサーの精密さだけでなく、従来のグラファイトパッドと比べて耐久性に優れているため、PS5ユーザーにとって決定的な違いを生み出します。

Edge(右)はホールセンサーに置き換えられています。
ドリフトという永遠の課題
ポテンショメータを使用したサムスティックがドリフトする原因はいくつかありますが、主な原因は、フィルム抵抗に対してコッパーブラシが動くことで生じる機械的な摩耗です。これについては、ジョイスティックのドリフトを調査したビデオ(日本語字幕付き)で詳しく説明しています。この問題は世界中で発生しており、よく知られた問題です。
しかし、ドリフトを解決できる方法があります。どのメーカーにも馴染みのあるホールセンサーです。最新のコントローラーでは、トリガーにこのセンサーが使用されているものもありますが、トリガー以外の場所では確認されていません。ホールセンサーによってトリガー機構はコンパクトかつシンプルになり、製造コストを削減できる上、動く機械部品の数を減らすことでトリガー全体の寿命も延すことが可能になります。

ホールセンサーは機械的な摩耗の要素がないため、ドリフトに対する耐久性は高い一方で、完全ではありません。センサーは回路上に配置され、周囲の磁場の変化を検出します。この変化を転送して回路上の他のチップがゲーム上の動きに変換します。摩耗や損傷が発生しないため、故障する部品はセンサーと磁石に限定されます。センサーの寿命は製造品質にもよりますが、10年、20年というのは無理な話ではありません。ネオジム磁石は100年経つと磁場が1%程度低下すると言われています。このシステムを合わせると、耐久性の長いものを設計できます。
特にSonyは2008年から2013年にかけて発売されたDualshock 3コントローラー(SIXAXIS)の一部で、ホールセンサーを搭載したサムスティックを製造しました。発売当時、このコントローラが他を圧倒していたとは、大部分の人が気づくことはありませんでした。そのため素晴らしいサムスティックの設計にも関わらず、Sonyがホールセンサーの採用を止める可能性はいつでもありえます。
このホールセンサーを搭載したアップグレードは非常に静かなものだったため、その記録を見つけるのは非常に困難です。Wikipedia英語版のDualShock 3 ワイヤレスコントローラーSIXAXISのページが良い例で、改良されたサムスティックに関する情報は「10ビットアナログ感度」のみで、ホールセンサーが搭載されていることについては全く触れられていません。しかし、このコントローラが新型のモデルよりも密かに長持ちするという事実だけでは、Sonyの収益を上げる原動力にはなりません。今の所は。

ドリフトの解決方法
口は災いの元です、現実的な解決策について話をしましょう。SonyのDualShock 3 コントローラーSIXAXISの一部モデルを除けば、Gulikitがポテンショメータを搭載したサムスティック市場を脅かすほどの唯一のコントローラメーカーでした。
Gulikitは、ホールセンサーを搭載したサムスティックの実装で特許を取得しました。その技術はGulikit KingKong 2 Proコントローラー、最近ではSteam DeckやNintendo Switchのサムスティックの交換パーツでも使用されています。SonyはDualSense Edge用のホールセンサーモジュールを製造する意向を表明しています。しかし、交換パーツにホールセンサーを搭載する方法は完全な解決策ではありません。私たちが行ったKingKong 2 Proの分解によると、SonyやXboxのコントローラーと比べて機能が豊富ではなく、品質管理に関する懸念も指摘されています。とはいえ、このホールセンサー技術はポテンショメーターを使ったサムスティックコントローラと比べて耐久性があります。
また耐久性だけがホールセンサーに切り替える理由でないのは、次の点が挙げられます。
- ホールセンサーは、センターリング時のデッドゾーンが小さいため、ムーブメントに対する感度が高いのが特徴です。
- ホールセンサーは、ポテンショメーターと比べて微妙なスティックの動きを捉えることができるため、より高い精度が期待できます。これは競技志向のゲーマーやプロゲーマーにとっては、ゲームチェンジャーです。
- ホールセンサーは、ポテンショメータに比べて消費電力が少ないので、バッテリー駆動のモバイル機器に最適です。
大手ゲームメーカーならば、より効果的な活用ができるはずです。Sonyが既に見せてくれたDualShock 3のホールセンサー付きサムスティックやDualSense Edgeのホールセンサーを搭載したトリガーだけでも、素晴らしい技術です。サムスティックの交換用モジュールからも、Sonyはポテンショメーターを搭載したスティックには問題があることを知っています。しかしそれだけでは不十分です。計画的陳腐化された白熱電球に対抗してLED電球が主流に置き換わっている様に、サムスティックにも耐久性のある技術の導入が必要です。電球にはLED技術が、サムスティックには磁石とホールセンサーという風に。
Sonyの正しい選択
サムスティックのデザイン選択は素晴らしいとは言えませんが、Sonyが選択したことは正しいと認めるのは重要なことです。ゲームコンソールのコントローラーで初めて、簡単に交換できるモジュール式サムスティックを採用しました。このデザインは、多くのコントローラーを増え続けるE-wasteの山から救い出し、消費者、メーカー、環境など、すべての人にとって益となるでしょう。完全な勝利ではありませんが、正しい方向への一歩です。
この注目すべきデザイン修正だけでなく、耐久性にも配慮し、トリガー機構に改良を加えています。発端は多くのユーザーからのクレームで、故障の原因となる1本のバネでした。このスプリングは、平均的なゲーマーから与えられる酷使に耐えられるよう、より頑丈なものに変更されています。(私のゲームスキルもこれぐらいアップグレードされるといいのですが……)
第二に、トリガーの改良は驚くべきもので、わざわざSonyが公表しなかったために多くの人が見逃しています。シンプルなグラファイトで作動するトリガー機構は、ホールセンサーに変更されました。これは通常のコントローラーでは真新しいことではありません。しかし愛用しているデバイスをより長く使えるのなら、画期的であろうとなかろうと、誰にとっても喜ばしいことです。
私たちを含めて多くのユーザーは、Sonyを含め他のゲームメーカーが、ポテンショメーターを搭載したサムスティックを使い続けていることに大変がっかりしています。その一方で、私たちや消費者たちが提供したフィードバックにSonyが耳を傾けてくれていることを知り嬉しく思います。新しいプラットフォームでゼロから始めるのではなく、慣れ親しんだデザインを維持しながら反復することに価値があります。DualSense Edgeは内部から再設計されていますが、オリジナルのDualSenseからの教訓が、この新しい設計のイテレーションに活かされていることは明らかです。今後の展開がますます楽しみです。
翻訳:Doi Midori
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