旧FacebookのMetaが、メタバースへの最先端の入り口となることを約束するプレミアムバーチャルリアリティヘッドセット、Meta Quest Proを1,499ドルで発表して話題となりました。400ドルで販売されていたQuest 2から大幅にコストアップしたProの大きな売りはカラーパススルー技術で、外の世界から取り込んだ画像に仮想インターフェースを重ね合わせています。つまりVRデバイスであることに変わりはないのですが、ProはAR(拡張現実)の機能も備えています。
この洗練されたシャーシ内に詰め込まれた様々なテクノロジーの中で、カーブしたバッテリーや明らかに外された深度センサー、アイトラッキングIRライトショーやプラスチックレンズなどを発見しました。非常に複雑な構造のMeta Quest Proの内部は、サービスマニュアル(もしあったとしても)なしで解体するのが至難の業なほど沢山の機能が搭載されています。

Mark Zuckerbergは、メタバースというビジョンに全力を注いでおり、彼の小さなソーシャルネットワークHorizon Worldで一般ユーザーを引き付けたように、できる限り多くのユーザーを参加させたいと考えています。Metaは、AppleにとってのiPhone、GoogleにとってWorld Wide Web、Hovisにとって薄切りパンのような存在になりたいと願っています。Metaは、われわれの日常生活になくてはならないデバイスとプラットフォームの両方を生み出し、その体験を独占したいと考えています。しかしながら、このビジョンはZuck Billion(何十億ドル)もの損失を与え、ウォール街はMetaに対して自信を失いつつあります。将来はProの中身と、消費者が生活や仕事、遊びにProを使いたいと思うかどうかにかかっています。
メタバースが良いかどうかはともかく、ここではMeta Quest Proについて語りましょう。これは本当に素晴らしいデバイスだと思います。
Metaはこのデバイスはゲームだけに留まらないと公言していますが、成熟したゲーム市場内でQuest Proは確実に受け入れられるでしょう。その主な理由は、2つのコントローラーとヘッドセットに搭載された3つの独立したシステムオンチップ(SoC)によるものです。ヘッドセットにはQualcommの最新Snapdragon XR2+ SoCが搭載されていて、VROSとして知られるAndroidで動くMetaのカスタムチップを動かす原動力です。
「世界最高水準の対バランスエルゴノミクス」といった宣伝文句でこのデバイスは売り出されましたが、そんなもの(言葉)は存在しません。滑稽なことにこの言葉をGoogle検索すると、結果の上位に独占禁止法に関するニュースレターがヒットするだけです。それはさておき、このヘッドセットは非常に快適で、多くの点で期待以上のものでした。
しかし私たちの分解の目的は、修理が可能かどうか、バッテリーの交換が簡単にできるかどうか、この価格の正当性を確認するために、内部がどうなっているのかを確認することです。
分解して最初に気づくことは、このデバイスの複雑さでしょう。合計146本のネジを外した結果、パーツ保管用のマグネットマットが3枚、そしてプラスチックパーツのためにもう1枚のトレイが必要になりました。実に、気の弱い人が修理するようなデバイスではなく、完全に修理できるデバイスでもないと言えるでしょう。バッテリーを交換すれば300ドルのコントローラーが壊れてしまうことを知った上で、1500ドルもするデバイスを買っても、残りの1200ドルのどこかのパーツも壊れるかもしれません。それだけのお金があれば、もっと修理可能な自動車が買えるのに、なぜ電子製品の扱いは違うのでしょうか?
バッテリー
まずバッテリーですが、おそらくQuest Proのユーザーはバッテリーを交換するために、ある時点でiFixitのPro Techツールキットが必要になるかもしれません。発売前からの情報としてMeta Quest Proのバッテリーは、背面側に搭載されていると言われいました。つまり、バッテリーが寿命に達した時、アクセスや交換がしやすいデザインであると考えていました。バッテリーに簡単にアクセスできるという予想には落胆しませんでしたが、予想していなかったのは不可解なデザインが施されていることです。その一つは、湾曲したバッテリーです。

湾曲したバッテリーは大変珍しいですが、目新しいものではありません。Ouraリングのようなウェアラブルデバイスは、Meta Quest Proの同様に搭載スペースが制限されているため、湾曲したバッテリーを利用しています。さらに驚くことは、Metaがスワップ可能なバッテリーパックを提供していないことです。バッテリー寿命はわずか2時間であるため、交換可能なデザイン導入は必要だったと言えます。Pimax Crystalは同じバッテリー容量でありながら、便利なバッテリーの置換が可能です。つまりゲームの途中で消耗したバッテリーを交換した後、充電してある別のバッテリーでゲームを継続できます。良いですね!
もう一つ不可解なのは、バッテリー表面を覆っている回路です。iFixitリード分解エンジニアのSam Goldheartによる指摘によれば、ここにバッテリーの膨張を検知するセンサーがあれば便利とのことですが、私もまったく同感です。安全第一、なにしろ頭に装着するものですから。またヘッドレストの裏側にはタッチ機能がないようなので、簡単に試すことはできませんが、当社のエンジニアはこれらの回路は静電容量方式のタッチセンサーと類似していると考えています。もしかしたら、パススルーモードを有効にするためのサイドタップ機能と何らかの関係があるのでしょうか?今の所、答えはわかりません。もし答えを知っている人がおられたら、ぜひ私たちに教えてください。

光学パーツ
間違いなく光学パーツは、評判の高いパンケーキレンズと同じでメインアトラクションです。シロップとホイップクリーム付きは言うまでも無く、このパンケーキはヴィーガン仕様で、おそらくグルテンフリーです。この光学パーツはすべて高指数プラスチックレンズでできています。ガラスは使用されていません。光学に詳しい友人のKarl Guttagに問い合わせたところ、プラスチックレンズを使うことで製造過程の複雑さとコストを軽減でき、全体の重量を減らすことができるそうです。一方で、ガラスの代わりにプラスチックを使用することで、光の屈折が双方向に大きくなり、元のレンダリング画像よりも淡く写る「ゴースト」が発生する可能性があります。この屈折のプロセスは残留複屈折と呼ばれます。これらの用語はKarlからの詳細な説明をそのままコピーしています。

しかし、このレンズに問題があるというわけではありません。私がこのデバイスを試用した時には、ゴーストは一度も確認しませんでしたし、画質も非常にクリアでした。このレンズは、Metaにとって大きなプラスポイントと言えるでしょう。安価でありながら非常に効果的なレンズだからです。
パンケーキレンズの欠点は、フレネルレンズと比較して、パネル上のすべてのものが大きく拡大されることです。つまり、Metaが公表しているピクセル濃度から37%アップするということは、パンケーキレンズを通して見た場合、Quest 2と同じように、ピクセルパーインチ(PPI)が広がるということです。つまりPPIは関係なく、Metaのマーケティングチームが使った誘い文句に過ぎないのです。本当に必要な値はパネルのサイズや倍率に関係なく、あなたの眼窩に焦点を合わせる画素数を示すPPD (角解像度)です。そのためここでいう必要な数値とはQuest 2の20.5 PPD、Meta Quest Proの22 PPDです。大きな違いではありませんが、少なくともマイナスではなくプラスに変化しています。ちなみにPimax Crystalは35PPDのディスプレイは、オプションとして35PPDから40PPDへと増やすことができますが、この場合、視野角(FOV)を犠牲にしなければなりません。
トラッキング
ヘッドセットには合計10台のカメラが搭載されています。5台の外部カメラはパススルー画像とヘッドセットの周囲との相対的な位置情報を処理します。同時に、この同じ5台のカメラは手と体の動きを検知し、筋肉のついた人体の各パーツがどこにあるのかを常に把握します。
ヘッドセット内部には他に5台のカメラが搭載されており、ここにも真のイノベーションが見られます。その中で最もユニークな機能ー顔認証を見て見ましょう。これは3台の専用IRカメラを使って、目や頬骨の周りの筋肉の動きの変化を探ります。スピーチのような複雑な動きに対しては(分解ビデオの私は無意識にこれに倣っていますが)、正確性に欠けることもありますが、笑顔やしかめっ面のような一瞬の動きであればうまく機能します。目や頬の筋肉をトラッキングしてこれらの動きを予測する機能は印象的ですが、現時点では意味のある応用はなく、完全にギミックに過ぎません。しかし、VRでアバターがまばたきをしたり、眉毛のイモ虫ダンスを見るのは、とても楽しいものです。一度は試してみることをお勧めします。でも一度だけで十分でしょう。
興味をそそられる最新テクノロジーであるアイトラッキングは、レンズの外周に取り付けられた1台の赤外線カメラで、反射した赤外線の強度を測定しています。そしてその動きは見事です。アイトラッキングは、VR、AR、ゲームなどさまざまな用途に使われますが、今のところ最も実用的なのは、フォベーテッドレンダリング技術を使って、画像処理にかかる負担を巧みに管理することでしょう。

フォービエイティッドレンダリングとは、目の動きを追跡して、画面上の焦点の合っている場所に最大のリソースを割り当て、パネル上の局所的なエリアに最大の解像度とパフォーマンスを可能にする処理です。一方、周辺エリアには同じレンダリングでも解像度を落とし、リソースを少なくした低画像度の映像が表示されますが、これは360度の映像に包まれるという効果を維持するためのものです。周辺エリアは焦点から外れているため(実際にあなたの脳では、フォービエイティッドレンダリングに相当する状態にあります)、低画質のエリアに気づくことなく、より少ないリソースと消費電力で、最高の体験を得れるというプラスの効果があります。これは、ハードウェアとソフトウェアエンジニアリングの非常に巧妙な融合です。残念ながら、これはすぐには実装できないため、サポートするアプリケーションでのみフォービエイティッドレンダリングを経験できます。
私たちVR およびシミュレーションの愛好家の多くは、ヘッドセットをPC に接続するとアイトラッキングが無効になることを知り、期待を裏切られました。なぜMetaがこの機能を無効にしたのか、その理由は分かりません。ある推測に基づくと、アプリケーション処理の大部分が専用のデバイスに移行する時、ヘッドセットには明らかにアイトラッキング機能を保つことができるはずだからです。
System on Chip
そして、私たちのバーチャルミールのお肉とジャガイモ、System on Chipにたどり着きました。私たちのコミュニティの寛大な専門家メンバー(名前は伏せます)が、包括的なチップIDを提供してくれたことに感謝します。

すぐさま注目されるのは、前世代のXR2よりも大幅に改善されたSnapdragon XR2+です。効率的なヒートシンクや熱拡散処理(ファンを使って熱を逃がす機能)と組み合わせることでXR2+は電力が50%向上し、高い熱負荷を30%長く維持することができます。これはどういう意味でしょう?詳細は分かりませんが、推測するとチップはより高いクロック周波数を維持することができます。つまり、高解像度の画像や複数プロセスを同時実行したり、一般的にスムースな視覚的経験を実行することができます。
また、XR2がLPDDR4Xで動作するのに対し、このXR2+はLPDDR5Xで動作することも特筆すべき点です。XR2+は、旧バージョンや、処理が遅いバージョンと比べると確かに優れており、既存のチップセットを単純に再パッケージ化した以上のものであることがわかります。また、XR2+はより多くの電力を消費するため、Quest Proの比較的短いバッテリー寿命については納得できます。
コントローラー
コントローラーははるかに簡単な装置ですが、複雑さもなく、確かに興味を引かれるものはさほどありません。内部侵入が難しく、円形トップを後で接着剤を再装着するのが至難の技のように見えますが、内部を開けばパーツに若干、アクセスしやすい構造です。
バッテリーは接着剤で固定されていますが、バッテリーそのものには比較的容易にアクセスできます。唯一の不満は、他のパーツを外すことなくリチウムイオンバッテリーを交換できるように、何らかのカートリッジ式デザインを採用できたのにということです。
これらのサムスティックは標準的なポテンショメーター式のスティックで、大変がっかりしています。このような設計のサムスティックは、GulikitがNintendo Switchの交換用サムスティックアセンブリで示したように、将来的にドリフトすることが知られています。その代わりにホール効果センサーを使用することは可能だったはずです。ここでデバイスの寿命を延ばす、もう1つのチャンスを逃したと言えます。

しかしトリガーとサムパッドの両方にホール効果センサーが使われているのは歓迎しましょう。サムパッドは、レバーの両側にある2つの大きな磁石とレバーの端に付いた小さな磁石の磁場のみによって1本の軸によって操作される、とても巧妙な実装が施されています。これは非常に関心させられる巧妙なボタンであり、競合する他の磁場が付近にあってもホールセンサーは効果を発揮することができます。
さらに、各コントローラーには、3次元空間の動きや位置のトラッキングムーブメントに対応する3つのカメラアレイが搭載されています。これにより、ヘッドセットと2つのコントローラーに搭載されているカメラの数は、なんと合計16個もあります!そのデータは、各コントローラー内にある専用のオクタコアSnapdragon 662 SoCに送信され、処理されてヘッドセットにワイヤレスでフィードバックされます。その結果、手が頭の後ろに伸びていても、手と腕の動きを驚くほど正確にトラッキングすることが可能になります。 これは旧モデルのコントローラーでは不可能でした。

製造上の問題
このヘッドセットに搭載された全てのテクノロジーは素晴らしいものですが、問題がないわけではありません。その問題はブリーディングエッジ技術に起因しているように思われます。
例えば、直前で生産中止となった「Time-of-Flightセンサー」を挙げてみましょう。このセンサーは、スマートフォンでよく見られる深度センサーの一種で、対象物までの距離を測定する非常に有効な手段です。このセンサーをこのモデルに実装していたら、コントローラーなしでハンドトラッキングができていたはずで、Metaがこの機能を製造過程で中止せざるを得ない何かが起こるまで、搭載予定だったように思われます。この機能は開発後期になってから除外されたため、その痕跡は何もない空のスペースと、どこにもつながっていないリボンケーブルが残されています。

ハードウェアの面では、本体内部の部品をもっとモジュール化することに時間をかけてもよかったように思います。このモデルは、ミニLEDパネルを比較的簡単に交換できるレンズアセンブリのようなモジュール部品がある一方で、このモジュールアセンブリを取り外すために大量のパーツとネジを外さなければならない悪夢のような分解作業が混在しています。メインボードにアクセスするなら、実に3枚のマグネットマットで外したパーツを保管しなければなりません。設計段階のゴールにリペアビリティやメンテナンスがもう少し考慮されていたら、この面倒な作業は大幅に簡略化できた可能性があります。

ソフトウェアに目を向けると、ユーザーインターフェースからインワールドでの体験に至るまで、すべてがリリースに向けて準備が整っていなかったことを示唆する証拠が多く見られます。メタバースの背景に浸ることができない画像上の障害があったり、友達と一緒にメタバースの世界に合流しようとすると、酷いゲーム体験をしてしまうことになります。ソフトウェアをプライムタイムに間に合わせるために、解決すべきことが沢山あありました。私は、企業のトップがユーザビリティと持続可能性を正しく実装するために、もう少し時間をかけてほしいと思っています。私がここで言いたいのは、このデバイスが市場に出るのを急いだのは別の理由があり、Appleの次期ARヘッドセットの登場はMetaの将来計画への大きな脅威であると強く信じているということです。もちろんAppleとなれば、Metaは懸念するでしょう。
最後のまとめ
分解を終えた全体の感想として、この新デバイスは遊んでも楽しいし、分解しても面白いものだと思いました。でも長く使えるものを探しているのなら、犠牲を払ってもこのデバイスを避けるのが賢明でしょう。このデバイスの内部を開くことは悪夢そのもので、修理しようとすると他のパーツを壊してしまう可能性が高いものに、お金をかけてしまうということです。このように、ギミックに溢れたパーツと洗練されたパーツが組み合わさったテクノロジーは、本当に息をのむほど素晴らしいものであるからこそ、とても残念です。
しかしながら、このようなユーザー側のメンテナンスを配慮していない製品は、廃棄がなく無駄のない持続可能な未来を目指す上で障害となる事実を無視することはできません。こうして世に出た以上、少なくともMetaにできることは、Quest Proのユーザーに対してサービスマニュアルとシリアル化されていない交換パーツを提供し、ザッカーバーグの未来へのビジョンへの膨大な投資を維持することでしょう。

翻訳: Midori Doi
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