ドライバービットの歴史を紹介する連載の第3回目です。
信頼に値する存在。象徴的な存在。アメリカ人にとっては母親が作ってくれるアップルパイのような存在。それがプラス(フィリップス)ドライバーです。
ポートランドの実業家が発明したわけでもないのに、今や世界中の家庭にあるツールボックスに、当たり前のように君臨しているのがプラス(フィリップス)ビットです。発明家ジョン・P・トンプソンが考案したネジは商業的な関心を集めることができませんでした。代わりに、明らかに優れた(もしくは運が良かった)ヘンリー・F・フィリップスがトンプソンからネジの設計を買い取りました。2人が出会っていなければ、今頃私たちのツールボックスにはフィリップスではなく「トンプソン」のドライバーが入っていたはずです。
しかし、フィリップスが常に「選ばれしもの」だったわけではありません。1900年代初頭、ヘンリー・フォードがT型フォード用の高トルクネジとして最初に選んだのはスクエアビット(ロバートソン)でした。しかし、ネジとドライバーを発明したP・L・ロバートソンは、イギリスで以前ライセンス契約を結んだ際に、自分の設計のライセンスを拒否しました。フォード社は、ネジを安定的に供給するためにライセンスが必要だったため、他のビットを模索しました。そして、フィリップスに出会ったのです。
しかし、フィリップスの優れたセールスマンシップは別として、工業生産の黎明期にフィリップスが成功した理由は何だったのでしょうか。フィリップスはトルクが強いのですが、同時にトルクが強すぎると「カムアウト」するように設計されています。一見すると、ドライバーの役割としては使いにくいと思われるかもしれません。しかし、クロスブレードに施されたこのカーブは、ドライバーに大きな力がかかっても壊れることなく、ソケットから滑って外れやすくしてくれます。この性能のおかげで、ツールとパーツの両方を破損から守ることができ、特に組み立てラインや工場の現場で重宝されています。
また、先端の尖ったビットと4枚の刃のそれぞれが外側に緩やかにカーブしているため、ビットをネジに装着すると「セルフセンター」の状態になります。そしてビットとネジが合わさると、力が加わるエリアが広範囲になります。力が加わるということは、従来の溝付きネジやドライバーよりも、より強度に固定されるということです。これはフォードや他のメーカーが求めていたものでした。時計の小さな部品から車のフレームまで、そして木材、プラスチック、金属などあらゆる製品に採用されることで、フィリップスのネジは頂点に達しました。
ネジを回す技術が向上して、最もベーシックな電動ドリルにも自動トルクリミッターが標準装備されるようになると、カムアウト設計は無意味のものになりました。(現在では、カムアウト防止用のプラスビットを使っているメーカーもあります。また、ビットを完全に変えてしまったメーカーもあります。) この便利なネジは、昔のアメリカ製造業による設計で、彼らのために生産されましたが、今日に至ってもまだ終わりを告げてはいません。
もちろんプラスネジには欠点もありますが、iFixitのロゴにプラスヘッドが使用されているのは特別な意味があります。プラスドライバーは、誰もが持っているユビキタスなドライバーです。そして、メーカーがセキュリティ(いたずら防止)ネジの代わりにプラスネジを使用するということは、そのデバイスはオープンであるというメッセージを送っていることになります。眼鏡を締めるのに使うプラスドライバーは、スマートフォンの修理にも使えます。そして多くの家電製品修理に登場する2番プラスドライバーは、照明のスイッチから自動車まで、あらゆるものに適用できます。ネジを外すと、自分が所有しているものを、自分の好きなようにメンテナンスすることができるのです。
それゆえにiFixitのManta Driver KitやMahi Driver Kitなどのツールを使って、小さなプラスビットを取り出した時には、誇りに思いましょう。そして、ご自宅のキッチンのガラクタ用引き出しに入っている2番プラスドライバーは、この先何十年も変わらずに活躍してくれることでしょう。
マイナス と ロバートソン ビットに関するブログも公開しています。ぜひお楽しみください。
*このブログはMidori Doiによって翻訳されました。
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